2011年8月更新
しかし、現代日本人の5人に1人が睡眠に関して何らかの悩みを抱えているのが現状のようです。中でも中高年以降に、その割合は高くなります。
単純に、蒸し暑くて寝苦しい・・というだけならまだしも、ストレスなどの精神的な障害や、脳や内臓などの疾患を原因として慢性的な不眠症に陥るケースは深刻です。そこで、今回は私たちの人生のおよそ3分の1に関わる「睡眠」をテーマとし、質の良い眠りへといざなう代表的な栄養素について迫って参ります。
まずは、睡眠がいかに健康にとって大切かということを見ていきましょう。
睡眠と健康の関係 ~寝ているあいだに起こること~
私たちは主に夜眠っている間に、身体の細胞や組織の新陳代謝を行っています。成長ホルモンや免疫ホルモンも睡眠中に分泌されます。昔から「寝る子は育つ」というように、食事から摂った栄養を使って体を成長させたり修復したりするのに最も大切な時間帯なのです。また、睡眠中にはγ-アミノ酸(GABA)、アセチルコリン、エンドルフィンなど、脳の神経伝達物質がつくられ、神経細胞に蓄積されています。朝起きたときは、これらが一番多く溜まった状態になり、一日のスタートが元気に切れるわけです。
したがって、睡眠不足が3日以上続くと、あらゆるパフォーマンスが低下し、性格までもが徐々に変化し始めるといわれます。そして、その状態が慢性的に続くと健康にとって様々な悪影響を及ぼします。
そして、どれだけ睡眠時間をとれば充分かという厳密な基準はなく、問題は質のよい睡眠を取れているかどうか、なのです。
眠りの質について ~ノンレム睡眠とレム睡眠~
睡眠中は、ノンレム睡眠(脳の眠り)とレム睡眠(体の眠り)が90~120分単位で入れ替わります。ノンレム睡眠とレム睡眠を交互に繰り返し、朝が近づくにつれノンレム睡眠の深さが徐々に浅くなっていき、やがて覚醒する、というのが睡眠のサイクルです。このサイクルが充分でないと、眠りの質が良いとはいえません。
ノンレム睡眠(脳の眠り)・・・成長ホルモンや抗ストレスホルモン(コルチゾール)が分泌され、体の修復をはかっています。
レム睡眠(体の眠り)・・・起きている間に蓄積された情報や感情を整理し、その固定や消去をしています。
ここで着目したいのが、睡眠と覚醒のリズムと体温のリズムは相互関係にあるということ。実は、私たちは体温が一番低いときに、質の高い睡眠がとれるように出来ています。これは、本来人間には体温が下がる夜に、体の休息と修復にあてるというメカニズムが備わっているためです。
このことから考えると、夜10時には床につくことが理想です。すると体温が最も低下する深夜2時頃にいちばん深い眠りに入ることが出来、快適な眠りを持続できるというわけです。仕事のお付き合いなどで、なかなか10時就寝が難しい場合は、遅くとも午前0時までには布団に入る習慣をつけたいものです。
さて、ここからが本題です。
快適な睡眠もやはり、その他の人間活動と同様に毎日の食事を中心とした生活習慣によって大きく決まって参ります。では、質の良い睡眠を助ける栄養素は具体的にどのようなものでしょうか。
【快眠に役立つ代表的な栄養素】
『トリプトファン』・・・ 眠りのホルモンを助ける栄養素
トリプトファンとは必須アミノ酸のひとつで、体内で合成することのできない必須栄養素です。このトリプトファンは脳に運ばれると、鎮痛、催眠、精神の安定などの効果がある【セロトニン】という脳内物質をつくる原料となります。セロトニンにはメラトニンという睡眠ホルモンの分泌を促す働きがあります。
⇒夕食時や夜にトリプトファンが豊富に含まれる食品を上手に取り入れましょう。また食事はお休みになる2時間前には済ませ、胃の中を空っぽにしておくことが大切です。
食品名 | 含有量(mg) | 食品名 | 含有量(mg) |
バナナ | 10 | アーモンド | 201 |
豆乳 | 53 | 肉類 | 150~250 |
ヨーグルト | 47 | 糸引納豆 | 242 |
プロセスチーズ | 291 | たらこ | 291 |
ひまわりの種 | 310 | そば | 192 |
『ビタミンB6』・・・ セロトニンの合成に必要な栄養素
ここで注意すべきなのがトリプトファンだけでは、セロトニンにはならないということ。
【セロトニン】の合成に必要なのがビタミンB6です。ビタミンB6と、トリプトファンが合成され、初めてセロトニンになるのです。
トリプトファンとビタミンB6をバランス良く摂取することで、上手に睡眠を促すホルモン「セロトニン」が合成できます。
にんにく、レバー、まぐろ、かつお、大豆製品、バナナなど
⇒バナナにはトリプトファンもビタミンB6も豊富に含まれていますので、快眠フルーツとして注目してみましょう!
『ギャバ(GABA)』・・・ リラックスして睡眠の質を向上させる栄養素
ギャバ(GABA)はγーアミノ酪酸の略称で、タンパク質を構成しない非タンパク系アミノ酸の一種です。体の中では、神経の興奮を抑制する神経伝達物質として活躍します。また、脳に働きかけて成長ホルモンの分泌を促し、内臓疲労の改善、睡眠の改善・促進、記憶・気力・気分の改善等、老化に伴う現象を改善させると言われています。
玄米、緑茶、トマト、アスパラガス、かぼちゃ、きゅうり、メロン、みかんなど
⇒睡眠中には様々な代謝活動が行われ、私たちの健康を維持しています。ですから、これらに加えて基礎栄養をバランスよく体内に満たしておくことが重要であることは言うまでもありません。
ちなみに、『不眠症』の改善に効果のある代表的な基礎栄養は、カルシウム、マグネシウム、ビタミンB群、ビタミンC、亜鉛 です。
詳しくは、症状別 ビタミン・ミネラル栄養療法【不眠症】 をご覧ください。
<番外編>こんな習慣が不眠を促す! チェックポイント
さて、私たちの生活習慣のなかで睡眠の邪魔になる事柄をいくつか挙げてみましょう。
◆アルコールの摂りすぎ
⇒少量であれば最初は睡眠を助けてくれますが、眠りのサイクルを混乱させます。特にレム睡眠が少なくなり、体の疲れが取れなくなる可能性があります。
◆昼間のカフェインほか刺激物の摂りすぎ
⇒昼間の行動は夜に影響します。したがって日中に興奮しすぎて交感神経を刺激しすぎると夜になってもなかなか興奮が収まらず眠れない、という現象が起きます。同じ理由で、夜寝る前のカフェインを注意するだけでなく、日中から摂りすぎには注意しましょう。
◆タバコを吸う
⇒タバコは神経刺激剤であり、睡眠のトラブルを起こしかねません
◆寝る間際に食べる
⇒特にベーコン、チーズ、チョコレート、ハム、砂糖、ワインにはチラミンという物質が含まれており、脳内刺激物質を増加させます。
◆お風呂はシャワーだけで済ます
⇒シャワーだけで済まし、湯船にゆったりつからないと血液やリンパの循環が促進されなくなります。体を温めたり、血行を良くすることは自然と体をリラックスさせて副交感神経を優位にし、睡眠を取る方向へ向かわせます。
◆寝る直前まで、テレビやパソコンをつけている
⇒これは、寝る前にカフェインなどの刺激物を取らないことと同じ理由です。つまり交感神経の興奮を抑えるのには時間がかかる、ということです。お風呂からあがったら、ゆっくりと眠る準備をしてください。部屋の照明を暗めにし、ラベンダーのアロマを炊くといったこともお勧めです。
これらに気をつけるだけでも、快眠への条件は満たすことができますので、是非実践してくださいね。
さて、いかがでしたでしょうか?
このように見ると、質の高い睡眠をとるコツは、 『栄養バランスの整った食事を夜8時頃までには済ませ、交感神経を興奮させるアルコールやカフェインを控え、ゆっくり入浴して体を充分に温めて血行を良くし、リラックスしてから布団に入る』、という健康維持のための基本的習慣がもっとも大切であることがわかります。
季節はもうすぐ秋。寝苦しい夜はすぎ、ぐっすり眠るには丁度良い季節になりますね。
ぜひ今回の特集をご参考にしていただき、質の良い睡眠から健康生活について見直してみませんか?
参考文献:杏林予防医学研究所 「予防医学ニュース No.170」
「食べない人は病気にならない」山田豊文著(幻冬舎)